春は「春眠(しゅんみん)暁(あかつき)を覚えず」と詩で詠まれる位、寝心地が良く朝が来たことにも気付かず、つい寝過ごしてしまう位だと言われています。しかし、実際には春になると睡眠に異常が起き、納得のいく睡眠を得られない方が沢山います。  ここでは、「良い睡眠とは何か?」を考え、眠りについて起こる様々な問題を漢方的に考えたいと思います。

良い睡眠とは…

良い睡眠とは、短かすぎても長すぎても良くないく、約6時間30分~8時間深い眠りに着く事が出来、朝スッキリと目が覚められる事です。

不眠について

漢方医学では、陰気と陽気のバランスが眠りの質に影響すると考えています。活動するところには陽気が多く、休息しているところには陰気が多くなります。昼間活動している時は、目や頭に陽気が集まり活発に行動できるようになり、夜間、眠りに付くころには目や頭に陰気が集まり休息できるようになると考えます。「陰気」「陽気」と言うとイメージしづらいかもしれませんが、「血流」と考えて頂いても良いと思います。血流の良い所は熱を持ちますので陽気が多く、血流の少ない所は冷えますので陰気が多くなります。「陰陽の交流」、「血流のバランス」が眠りに大きな影響を与えると考えています。

漢方医学的な分類

眠りに関するトラブルを漢方的に分類、解説すると以下のようになります。

寝つきが悪い(入眠障害)

〈症状〉
漢方的には、胃に熱が多いと寝付けないと考えます。簡単に言うと、お腹が空いていると寝つけないのです。実際にお腹が空いているのではなく、胃に熱を持つとお腹が空いた状態と同じになるので寝つけなくなります。  ストレスなどから慢性胃炎や胃の膨満感、胃酸過多傾向、逆流性胃炎などの症状のある方は胃に熱を持ちますので寝つきが悪くなります。胃に熱を持つと胃の働きが異常亢進し、食道、口、鼻、目、頭に熱を持つため、目がさえてしまうのです。口が乾く、唇が荒れる、舌の苔が厚くなる、口臭がする方は寝付きが悪くなりやすいです。  胃の熱が異常に高まると、極端な例では「寝なくても平気」というハイテンションな状態になります。病的になると躁状態になり、目がギラギラとして騒がしくなり、落ち着かなくなります。
〈治療〉  胃に熱が停滞する原因は、胃に血液が多く集まり過ぎることにより起こります。胃に血液が多く集まり過ぎてしまう原因にアプローチすることが大切になります。 元々胃の働きが活発で暴飲暴食が出来てしまうタイプの方には、胃の働きを抑えるツボに鍼をします。このような方は胃酸過多傾向で、多少の無理が出来てしまうのですが、ストレスには弱く胃炎などを起こしやすいタイプで、胃の熱に伴い寝つきが悪くなります。また、ストレス解消で食べ過ぎてしまうと更に寝つきが悪くなります。 反対に、胃の働きが悪いタイプの方には、胃の働きを活発にするツボに鍼をします。過労やストレスがあるとすぐに食欲が低下し、胃の働きが遅くなってしまう為、胃に血液が停滞してしまい常に膨満した状態になります。食べられなくなると空腹状態が長く続くため、さらに寝つきは悪くなります。

夜中に目が覚める(中途覚醒)

〈症状〉
眠りにつくと、2~3時間後に体が暖かくなり深い眠りに入っていきます。しかし、普段から上半身に熱が多いと、深い眠りについたときの熱と、最初からある上半身の熱が重なり、寝ついてから2~3時間後に「パチッ!」っと目が覚めてしまいます。ひどい時は、毎日同じ時間に目が覚めるようになります。熱が多いと言う事は、それだけ充血していると言う事です。血液は、働くところに多くなりますので、頭は常に考え事をして思考を巡らし、その結果、責任感や緊張、ストレスなどから心臓がドキドキする事が多くなったり、呼吸が荒くなったりし、上半身に血液が多く集まり、のぼせるようになるのです。のぼせがあると、常に頭に血液が停滞し、頭を働かせている状態になります。その為、寝ていても考え事をしてしまい、考えている事が夢に出て、更に眠りを浅くします。  また、この状態が長く続いたり、多忙や継続的なストレス、体質的なスタミナ不足などが重なると、食欲低下を起こし体重の減少から貧血状態となり、手足は冷たいが上半身だけに熱がこもる様になり、全く眠れない状態になります。
〈治療〉
健康な状態は「頭寒足熱」といって、頭は涼しく足が暖かい状態です。上半身に熱がたまると下半身が冷え「頭寒足熱」とは反対の状態になります。上半身にたまった熱は血液が停滞することによって起こるため、下半身が血流不足になり冷えるのです。治療は、足のツボに鍼をし、上半身にたまった血流を下半身に流れるように行います。食欲低下から貧血を起こしている方には消化吸収を助けるツボにも鍼をし血液自体を増やすように働きかけます。上半身が涼しくなり、下半身が温まると深い眠りにつくことができます。

朝早くに目が覚める(早朝覚醒)

〈症状〉
まだ寝ていたいのに朝早くに目が覚めてしまう。睡眠時間は足りていないのに朝方目が覚めた後は寝付けない。高齢になると朝早くに目が覚めてしまう事は有りますが、若い方でも同じ事が起きます。加齢や過労から体内の水分バランスが悪くなり、夜間排尿、口渇、皮膚のかゆみ、足のむくみ、手足のほてりなどを伴います。水分バランスが悪いため、夜中に体が温かくなると、水分を余分に消耗し、口渇などを伴い起床時間よりも1~2時間早く目が覚めてしまいます。体に水分が足りていない状態なので、水分を補給し、体に行き渡るまではなかなか寝付けません。かと言って、水分を十分補給して眠ると、夜間の排尿回数が増えさらに眠れなくなります。
〈治療〉
水分の循環が悪いと、身体各部でむくみや乾燥などがあらわれます。むくむ部分があるということは、水分自体は足りていはいるのですが、水分がうまく組織に溶け込めず、循環していないということです。つまり、水分が余っている所と足りていない所が出来るのです。水分が余っているのでむくみや夜間排尿が多くなり、足りていないので口渇、皮膚のかゆみ、手足のほてりなどが起こるのです。治療は、水分の循環を良くするツボに鍼をします。水分が上手く血管に吸収され、全身を巡ると体のほてりが無くなり、朝までぐっすり眠れるようになります。

生活パターンを見直して寝付き改善

「寝つきが悪い」と訴える方に、生活パターンからくる入眠障害の方がみえます。 夕食を6時くらいに終え、11時ごろに寝ようとお布団に入っても寝られないので仕方なく睡眠導入剤を服薬されている方がいます。こういった方の中に、生活パターンを見直すとよく眠れることがあります。  お話を聞くと、夕食後2~3時間後くらいに眠気が来るそうです。ただ、見たいドラマが有ったり、やりたいことが有るとついつい我慢して起きている。あまり早くに寝るのも味気ない…。そして11時ごろに寝ようと思うと目がさえて30分~1時間くらいは寝つけない。仕方なく睡眠導入剤を飲んでようやく寝つくのですが、次の朝あまりスッキリしていない…。そういった方の中に生活パターンを見直していただくと、寝つきがよくなる方がいます。  食後は消化吸収を行うため、目や頭で働いている血液が胃に集まります。そうすると頭の興奮状態が覚め、眠れる状態になるのです。それが食後2~3時間後です。しかし眠気のピークを越え、我慢して起きていると、やがて胃の中は空っぽになり頭に血液が戻り、目がさえてしまうのです。寝る前に何か食べると再び寝付けるのですが、肥満の原因になったり、胃の弱い方は次の日に胃がもたれると訴えます。  このような方は食後あまり時間を空けずに就寝することが大切です。食事の時間を1時間ずらしたり、就寝時間を1時間早める、または、夕食時の量を少し減らし、就寝前に少し口に入れるなどして生活パターンを見直すと寝つきがよくなります。


清須市の鍼灸院で働く若先生より