流産・不育症
やっと身ごもった赤ちゃんをなくしてしまうというのはどなたにとっても耐え難い経験の一つです。今回は、流産に加え、流産が複数回起きてしまう不育症(習慣流産・反復流産と同意語)と漢方はり治療ができる事を考えます。
【少なくはない流産】
流産とは「胎児が胎外で生存不可能な時期の分娩」と定義されています。細かく言うと、妊娠22週未満の分娩をいい、22週以降の死亡胎児の出産は「死産」と定義されています。流産のうち、多くの流産は、前半の妊娠12週までに起こり「初期流産」といわれます。初期流産では、精子と受精した受精卵が胎児になる前の状態の胎芽(たいが)と言われるものが認められないか、認められても生存していない状態なので、正常な妊娠へと向かわせる治療法はなく、妊娠は継続できません。
また、流産はまれなものではなく、妊娠がわかった人の10〜20%ほどでみられます。つまり、10人妊娠したら1~2人は流産するということです。流産(早産、死産を含む)をくりかえす方もみえます。 2回以上の連続した流産は不育症(または反復流産)と言い、3回以上の連続した流産は習慣流産と呼ばれます。
【原因は何?】
流産を経験した多くの方は「忙しく動き回っていたせいかな?」とか、「家庭内のストレスのせいかな?」、「遺伝的に何か異常があるのかも?」など自分の生活や体に原因があるのではと、少なからず自分を責めたりもします。しかし、正常に子宮に根を下ろしている受精卵なら少々の外傷性ショックや精神的なショックでは生き残るものです。また「自然淘汰」という言葉が有るように、正常に発育して行く力が無い胎児がいるのも事実です。妊娠、出産はいくつもの偶然が重なってやっと誕生するものです。
【不育症のリスク因子】
子宮の形が通常と異なる子宮形態異常が7.8%、甲状腺の異常(機能亢進症もしくは機能低下症)が6.8%、両親のどちらかの染色体異常が4.6%、抗リン脂質抗体陽性が10.2%、凝固因子異常として第XII因子欠乏症が7.2%、プロテインS欠乏症が7.4%あります。
なお、夫婦染色体検査については、メリット(流産のリスクならびに流産率が判明する)、デメリット(精神的苦痛、どうする事もできないという悩みなど)があります。しかし、不育症外来を受診した染色体均衡型構造異常を持つカップルの生児獲得率(子供を持てる確率)は、一般のカップルとは変わらない事が知られています。染色体構造異常があると流産を繰り返し、子供を持てないと思われがちですが、それは間違いです。流産回数は一般のカップルより多いですが、最終的には流産せずに子供を持てる確率は一般の方と変わりません。
(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構委託事業HPより)
【漢方はり治療が出来る事】
流産しないために漢方はり治療が出来ることは「体調管理」に他なりません。治療することによって調子の良い日を増やすことで流産の確率を減らします。
漢方はり治療は妊娠を希望した時からが有効です。早期流産の原因となる染色体異常は、母体の年齢が高いほど頻度が増します。健常な女性でも20代で10〜20%、30代で20〜30%、40代では30%以上といわれています。体外受精を行う時に卵を取り出しますが、その時、漢方はり治療を行った後では、良い卵が取れるようになる確率は増えます。つまり治療をすることで、体調を良くし、実年齢より少しでも若返られることにより、良い卵を排卵し、少しでも流産の原因となるものを減らすお手伝いをするのです。
◇こんな人は要注意!
〈極度の心配性タイプ〉
妊娠すると誰もが心配するのが流産です。ましてや、流産を過去に経験している方は「また流産したらどうしよう」と頭をよぎるのは当然です。しかし、極度に心配し過ぎると、「流産するかもしれない」というネガティブナな思考でいっぱいになり、自分でストレスを増大させ、不眠、動悸、食欲不振、肩こり、頭痛などから、精神的に落ち込んでみえる方が時々みえます。
本来、妊娠は女性にとって人生の中で充実した時間を過ごす絶好の機会です。この様なタイプの方は、一つずつの体調不良を漢方はり治療で改善し、心穏やかに過ごすことが重要です。また、一人で過ごす時間を減らし、家族ではなく、他人とコミュニケーションを取りながら過ごす事も重要です。
〈痩せた内臓下垂タイプ〉
妊娠中期以降は、疲れるとおなかが張ることがあります。これは、疲れや体調不良から内臓が下垂し、子宮が下垂することにより起こります。やせ形でもともとスタミナのない方は疲れると、内臓下垂を起こしてしまいます。子宮も内臓の一部なので、疲れると下垂し、下に下りてしまうのです。子宮が下に下りてしまうと、子宮頚管が短くなり早産の危険があるのです。休んでもとれない疲れを回復し、食欲、睡眠を充実させる事によって内臓下垂、早産の予防にも漢方はり治療は有効です。